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鹿野淳

掲載日:2022年4月27日

鹿野淳

プロフィール

音楽ジャーナリスト、出版社 株式会社FACT代表取締役

1990年 株式会社ロッキング・オン入社。その後、『BUZZ』、『ROCKIN'ON JAPAN』の編集長を歴任。2004年 株式会社FACTを設立。2007年3月には音楽雑誌『MUSICA(ムジカ)』を創刊。
フェスプロデューサーとしても『ROCK IN JAPAN FES』に始まり、『COUNT DOWN JAPAN』、『ROCKS TOKYO』などに初回からオーガナイザーとして関わり、現在は埼玉県最大のロックフェス『VIVA LA ROCK』の主催とプロデュースを手掛け、毎年8万2千人以上が集まる、春フェス最大級のフェスに成長した。その他、編集/執筆活動のほかテレビやラジオ出演、音楽ジャーナリスト養成所『音小屋』の開校等、音楽ジャーナリズム全般をクロスオーバーさせている。

「自分らしくあれ!そのために音楽もアートも自分もあれ!! 」

音楽フェスティヴァルというのは、音楽と音楽を愛する者たちを祝福するイベントです。だから、単なる音楽ライヴではなく音楽フェスティヴァルと呼ぶのです。
その、音楽を愛する者たちを祝福するために、音楽フェスティヴァルはメッセージを放ちます。それは「自分らしくあれ! そのために音楽が最高のものであれ!!」ということです。
「自分らしくある」というのは、簡単なようで難しく、難しく考えればキリがないですが自分と周りを大切にすると自ずと見えてくるものだと思います。それは自分を大切にするということは本来、周りを大切にした結果としてついてくるものだと思うからです。その周りを大切にすることによって周りを知り、その周りを知ることによって自分が何者なのかがわかるーーそのことによって自分らしいということがなんなのか? そして周りの人々もそれぞれが自分らしさを持っているんだということに気がつくことができると思うのです。そうすると自分を肯定して相手を否定することも減るだろうし、その逆に相手と比べて自分が劣っているというコンプレックスを持つことも少なくなるのではないでしょうか。
しかしそんなシンプルなことがいかに難しいか? それを残念なこととして証明しているのが、例えば現在のロシアとウクライナによる戦争だと思います。我々人間は、いつも自分らしくあるために相手を否定し、自分と相手が違う価値観を持つことを否定します。こうやってもっともらしく書いている自分もまた、日々そんな間違いを繰り返し、悔やむことばかりです。違う、ということはとても素敵なことのはずなのに、ついつい違うことは我慢ならないという価値観を持ってしまうのです。困ったものですよね。

「違い」というのは人間を不安にさせます。本当は違いというのは素晴らしいもののはずなのに、誰かに「違う」と言われるとまるで答え合わせをしているかのように、間違えてしまったことを後悔したり、自分を卑下するような気持ちになってしまいます。
CMでは「違いがわかる男」という名台詞があったり、サッカーでもスーパースターを語る際に「違いが作れるプレイヤー」という言葉が使われたり、本来の違いというのは人間の長所を語る時に使われるものなのです。そもそも、自分と同じようなことをしていたり考えている人とずっといても面白くなかったりしませんか? それよりも相手が自分と違うからこそ面白いし刺激が生まれるし、心がときめくことを誰だってみんな体験しているはずです。好きになった人に求めるものが自分と同じものか? もしくは自分と違うからこそ相手の魅力に惹かれていくものじゃないのか? 僕はずっと後者であり続けたいと思う人生を送ってきました。そしてVIVA LA ROCKもそういう者の集まる場所でありたいと思いながら開催を続けています。

VIVA LA ROCK 2021の様子
VIVA LA ROCK 2021の様子

これだけ多くの「違う」ことから人生の彩りを僕らは与えられているのに、それでも誰かが自分と違うとその人に疑いを持ったり、自分が誰かと違うと不安になったり劣っていると思ったり、もっと言えば「減点」されていると僕らはついつい思ってしまいます。そう、違うということは引き算ではないのです。むしろ足し算につながることなのだということが、前を向いて日々歩んでいくことにとても大事なことだと思うのです。

「あるがままの心で生きようと願うから
   人はまた傷ついてゆく
   知らぬ間に築いていた自分らしさの檻の中で
   もがいているなら誰だってそう
   僕だってそうなんだ」

“名もなき詩” by Mr.Children


この名曲は、自分らしく生きることを否定している訳ではありません。自分らしく生きることは自分の中に閉じこもることではなく、自分を世界に解放することだ。それは時に傷つくことも多い行為だけど、傷ついてでも自分らしく生きることは素晴らしいことだし、そのことに悩んでいるのは自分だけじゃないんだ。だから勇気を持ってーーということを歌っているのだと思います。

この歌が教えてくれたことを他の形で自分に授けてくれた中に、障害者の方々がいます。例えばレイ・チャールズ。偉大なる活動を続けたポップミュージックの伝説そのものである黒人アーティストのレイは、盲目のアーティストとしても知られています。
そのレイの曲の中に“I Can’t Stop Loving You”というものがあります。これは広大な景色が広がるような、希望と幸福を願う気持ちが歌われているバラードなのですが、最初に聴いた時に自分は目が見えないのにどうしてこんなに綺麗で広大な景色が広がるような曲を生み出して歌えるのだろう? と疑問を持ちました。すると知人がこう、教えてくれたのです。
「目が見えないからこそ、見える世界がきっとあるんだよ」
そう、目が見えないからこそ、そんな自分を肯定しようとし、その探究心の結果、目に見える世界以上の世界を音楽として描き出すことができる。そんなことをきっとレイ・チャールズはやってのけたんだと思います。自分の世界を見つめ続け、自分の世界をはっきりと抱き、それを自分の中に閉じ込めずに広く世の中に放とうとする、そんな勇気は計り知れない人間の力だし、そうやって自分を肯定する何かを探し続けた結果、差別や違いを超えたエネルギーで生きていることを肯定する表現を生み出せる、そんなことを成し遂げる障害者の方は多いと自分は何度も知らされて来ました。

VIVA LA ROCKは初回から、埼玉県とロックミュージックに徹底的にこだわった音楽フェスティヴァルです。夢は埼玉県の方々だけでチケットが売り切れてしまうことなんです。だからこそこのフェスを始めるにあたって埼玉のことをとても勉強しました。その中で障害者の方々がアート活動をし、それを埼玉県がさまざまな形で支援していることを知ったのです。そしてその展覧会やパンフレットを見せていただく機会を得ました。
本当に素晴らしいんですよね。どの表現もとても興奮しました。
何が素晴らしいって、全部が全部、「人が見える」ことなんです。アートというのは時代やブームなどが、表現者の個性と相まって生まれてくるものだと思いますが、埼玉県の障害者アーティストの皆様の表現、作品は、時代やブームをなぎ倒して自分の思い、夢、闇雲な衝動、そして願いが突き刺さってくるようなエネルギーを感じました。これが本来のアートの力だよな、これこそが時代という道を切り開いていく大切なものだよな、という気持ちに心の底からなれたのです。

VIVA LA GARDENにフラッグとして飾られたアート作品

VIVA LA GARDENにフラッグとして飾られたアート作品

まさに「自分らしくある! そのために芸術が最高のものである!!」を皆様が実践していることに、どうか胸を張っていただきたいと思います。「それぞれが違う、だからこそ素晴らしい!」をそれぞれの生き方、表現で貫いていることに誇りを持って、さらに突き進んでほしいと願います。時に様々な価値観などがぶつかってくることも多いと思いますが、自分を支えてくれる人が近くにいるんだ、自分らしく生きることは1人で生きることじゃないんだ、誰かが自分の心のドアをノックしているんだ、その音は自分の世界を広げることの始まりのチャイムなんだ、ということも時々思い出してください。僕らVIVA LA ROCKもそうありたいと願いながら頑張りますし、皆様と皆様の表現活動をこれからも応援させていただきます。

埼玉県×ビバラ「You’ll Never Live Alone」ブース
埼玉県×ビバラ「You’ll Never Live Alone」ブース

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VIVA LA ROCK 2022