インタビュー・コラム

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掲載日:2021年11月1日

平間 保枝(ひらま やすえ)さん

File1_平間保枝さん

プロフィール

さいたま市在住。
Sakura Mohila(サクラモヒラ)代表。
大学で8年、英会話学校で6年間英語講師をし、1998年からサクラモヒラの活動を開始。バングラデシュで生産された絹や綿といった自然素材を使った衣料品等を日本で販売している。
2012年に埼玉県「いちおし『起』業プラン大賞」、2014年にさいたま輝き荻野吟子賞(きらきら輝き部門)を受賞。
奇跡の出版社とも呼ばれる南インドの「タラブックス」(Tara Books)が目下の目標。

なぜバングラデシュに関わるようになったのか?

「偶然の成り行き」と言ってしまえばそれまでなのですが、東洋大学の英語講師をしていた時に、元駐日バングラデシュ大使のハクさんから、英語の翻訳や講演会の通訳を頼まれたことが最初のきっかけでした。

ハクさんは機会を見つけては、当時最貧国と言われていたバングラデシュの惨状を訴えてきました。その後祖国に帰ったハクさんから「バングラデシュには何もないが、人を見てくれ」というお誘いを受け、最初は断っていたのですが、1994年にバングラデシュの片田舎・ナラヤンプール村に行ったところ素朴で人懐っこい村人たちと出会うことで、すっかり村そのものが好きになりました。

最初は学校作りの支援から始まった

初めはナラヤンプール村に小学校の教室を寄贈するための活動に関わりました。1995年に、私が当時所属していた途上国の支援をする会「SRID」の婦人部の援助で、学校を作るプロジェクトがスタート。2000年にようやく小さな学校が完成し、2004年には公立の学校に指定されます。

村にしっかりと関わるようになってからは、その村の人たちと何か一緒にできないかと真剣に考えるようになり、村の女性たちと縫製作業を始めることに。そして地元のカディ綿織り職人の依頼により、手紡ぎ・手織りの綿であるカディを扱うようになりました。

文化の違いを乗り越えるための長い道のり

ハクさんから「日本で絹を売って学校の資金を作ってほしい」という誘いを受けたことから、Sakura Mohila(サクラモヒラ)という組織を立ち上げ、絹製品などを販売する活動が始まります。この活動の一環で、若い女性たち用に就労プログラムとして立ち上げた縫製チームが作った商品も売ることとなりました。

とは言っても縫製商品を作って売るという文化の無い人たちに技術を習得してもらうのは大変でした。いくら説明をしてもなかなか上達せず、縫い目が曲がっていたり、サイズがバラバラだったり・・・ゴミの山のような商品が届くといった頭の痛い状況が続きました。

しかし、2012年に日本の国際ソロプチミストの表彰を受け、副賞としていただいた途上国の女性の自立を応援するための賞金を活用することで、首都ダッカでアパートを借りて新たなトレーニングができるようになりました。それでも縫い目をまっすぐにしたり、布を汚さないようにするといった基本的な縫製作業から、デザインも自分でできるようになるまでは、本当に長い道のりでした。

共同生活をしながらの研修で、大きな変化が!

ナラヤンプール村から遠いダッカのアパートでスタートしたトレーニングは、共同生活をすることからスタートしました。最初はいろいろな不安がありましたが、始めて見るとスムーズに動き出しました。今から考えると、この研修で苦楽を共にしたのが、本当の意味で現地の人とのコミュニケーションがとれた最初の時だったのかもしれません。

ダッカでの研修が年月を重ねるにつれ、彼女たちの能力は見違えるほどのアップし、収入にも反映されていくようになりました。今では、国際宅急便で届く期待以上の商品に、日本のスタッフと喜びの声をあげるようにまでなりました。

それでも日本での販売数を伸ばしていくのは苦労の連続ですが、スタッフたちの協力もあり、状況は変わってきています。ただ、商品の質だけでなく、やりとりの問題でも大変なことがいろいろとあります。例えば、一種類のスカートが数十枚も届いたりすることがあります。向こうも生活が大変ですから、故意に間違えて送ってくることもあります。それでも、そのまま返すわけにもいかないので売る努力をしています。向こうも、そうしないと生き残れないという一面があることがよくわかるからです。

日本は本当に豊かな国なのか、という疑問を持つ瞬間も!

初めて村に連れて行ってもらったときに「本当にここが貧乏な村なのかな?」という印象を受けました。というのも、村人がみな自然体で、日常の生活を心から楽しんで生活している様子が伝わったからです。

バングラデシュの人々と接してから、自分の中での日本人に対する見方も徐々に変わりました。一見すると文化的で便利な環境に囲まれている日本人ですが、実際はお金に縛られて、窮屈な生活をしてることが多いのではないでしょうか。バングラデシュの人たちはお金なんて始めから無いも同然なので、自然の中でのびのびと暮らしている様子がとても人間らしく見えるのです。

個人的には「お金持ちってなんだろう」と考えるようになり、お金が無いことを貧乏だと思わなくなりました。お金の価値が消えていったというか……。
ただ、組織を運営する責任者として、人を雇って事業が回るようにするためにはお金をしっかり稼ぐ必要がある、ということは忘れてはいけないのですけどね。

効率や儲けだけでビジネスを考えないで欲しい!

貧乏とかお金持ちとか、そういう目では経営を見なくなりました。「これが好きだから、これをやりたい」といった大切なものが何かを、若い人に対してうまく伝えていきたいですね。今の時代「儲ける」とか「効率よく」ということを求める若い人は多いと感じます。本当はもっと大きく大切なものがあるし、世の中での自分の立ち位置や人として生きていくための価値はお金だけじゃないと心から思います。

経済的に成功した人だけが成功者、とは思わなくなりました。人間的にとても素晴らしい方もいらっしゃるし、利益が薄くてもその事業の必要性を感じて、努力を続けている立派な人もたくさんいます。

自分なりの良し悪しの基準をしっかりと持っていただきたいです。そのような視点を持った方が、起業もうまくいくと思います。

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